2日目は、朝早くにあっきーが宿泊先のマンションに迎えに来てくれた。使っていないマウンテンバイクを、あっきーの友達が貸してくれるというので、友達の住むホテルに受け取りに行くためだった。
ってかホテルに住んでるの!?どんな金持ちよ!?と思ったのだけど、オーストラリアでは、ホテルの一室を何人かでシェアして住むことはよくあることらしい。
到着したのは立派なホテルだった。エントランスのソファーに座って待っていると、やたらと声がでかい女の子が降りてきた。それが「なおえ」だった。寝起き感満載でめちゃくちゃ眠たそうだったので、見知らぬ女に自転車を渡すためだけに早起きさせて申し訳ないなあと思っていると、「ダチのダチは、ダチだから!気にすんな!」みたいな(もうちょっとちがう言い方だったような気もするけど)男前なセリフが飛び出した。
酒焼けした声はガラガラで、顔はむっちゃむくんでたけど、ファンキーでおもしろい子だなあ。さすがオーストラリア、と思った。
ゴールドコーストでは、移動にスケボーを使う若者が多い。道を歩いていると、スケボーに乗ってさっそうと通り過ぎていく姿をよく目にする。サーファーっぽくていいなあ。かっこいいなあと思ったけれど、乗ってみようとは思わなかった。自分のスケボーの才能のなさは、小学生の早い段階で悟っている。
だけどマウンテンバイクならわたしにも乗れる。サドルが鋭角すぎて股間が痛くなるのが玉に瑕だけど、とにかく、マウンテンバイクという装備を身につけて、自由度が確実に増した。
いったん家に戻って支度をして、すぐにビーチへ向かった。マウンテンバイクを路肩に停めて、ビーチでのんびりして、眠くなったらベンチで寝て、またマウンテンバイクであてもなく走りだす。めちゃくちゃ自由だった。最高に幸せだと思った。
昼過ぎになって小腹が空いたので、メインビーチの近くにあるパンケーキ店に入った。プレーンのパンケーキを注文してわくわくしながら待っていると、イケメンの店員さんが運んできてくれた。う〜んおいしそう!
食べたとたんに衝撃を受けた。
むっちゃまずい。
こんなにまずいパンケーキを食べたのは、冗談抜きで生まれて初めてだった。いったいどうやったらこんなにもまずいパンケーキがつくれるのだろうか?わたしだってもっとおいしくつくるぞ…。
ダブルを頼んでしまった自分がうらめしい。「シングルを頼んで足りなかったら嫌だし〜。たくさん食べたいし!」って…これだから欲張るといいことがないのよ!
一生懸命フォークとナイフを動かすものの、口にもっていくのさえためらわれる。渋い顔をしていると、イケメン店員がやってきて、「どお?おいしい?」と満面の笑顔で聞いてくる。つくり笑顔で「イエス!」と答えたけど、たぶん笑えてなかったと思う。
がんばって1枚の4分の3くらいは食べた。残りまるまる1枚と4分の1…ていうか、なんでわたしは、こんなにもがんばってパンケーキを食べてるんだ?虚しくなってきた。もう残してしまおう。お金はもったいないけれど、「オーストラリアで知らない店のパンケーキは食べない」という教訓を得られてよかったじゃないの…。
そう自分に言い聞かせて、店を出ることにした…
のだけど、この残ったパンケーキをどうしよう。お客が少ないせいか、イケメン店員はひんぱんにわたしの席の前を通る。彼はとてもフレンドリーで、通り過ぎるたびにほほえみかけてくれるし、何か必要なことはないかと、ちゃんとテーブルもチェックしてくれている様子。
のだけど、この残ったパンケーキをどうしよう。お客が少ないせいか、イケメン店員はひんぱんにわたしの席の前を通る。彼はとてもフレンドリーで、通り過ぎるたびにほほえみかけてくれるし、何か必要なことはないかと、ちゃんとテーブルもチェックしてくれている様子。
まるっと1枚以上残して席を立とうとするのを見つかってしまったら、「もしかして、おいしくなかった?」なんて聞かれてしまうかもしれない!そんなことになったら、なんて答えていいかわからない。イケメンの悲しそうな顔も見たくない!
例えば1枚の半分だけ残っていたら、「ごめんね〜お腹がいっぱいで。やっぱりオーストラリアサイズはすごいよね!」と言える(そんな英語力あるのか?)けれど、まるっと1枚以上残ってるって、あきらかに「おいしくない」って言ってるようなもんじゃん。うまい言い訳が思いつかないよ〜。
結構本気で悩んだ結果、わたしが取った行動は2つ。
手をつけていない方のパンケーキを切って、2段に重ねて、ぱっと見半分以上食べたように見せかけること。
イケメン店員さんが遠くの方にいることを確認して、まるで忍者のようにサササっとレジへ向かうこと。
極力存在感を消しながら出入り口付近へ行くと、カウンターに優しそうなおばさまが立っていた。レジはどこですか?と聞きながら、わたしはイケメン店員が来なしないかとひやひやして、何度も店内を振り返ったりしていた。焦っているせいで、おばさまがなんと言ったのかよく聞きとれなかった。
おばさまが立っているのは、ドリンクかなにかを出すカウンターで、レジはどこか別のところにあると思っていたので、「レジはどこですか」「会計したいんです」と言葉を変えて何度も質問したのだけど、どうもうまく伝わらないのか、レジの場所を教えてくれない。
5回くらい質問して、やっと気付いた。おばさまはずっと、「ここがレジよ」と言っていたのだった。
顔から火が出るくらい恥ずかしかった。大抵の外国人ならば、きっと不審者か何かを見る目でわたしを見ただろう。だけどおばさまは優しかった。笑顔で「いいのよ、うふふ」と言って会計をしてくれた。
申し訳ないやら恥ずかしいやらで、そそくさと店を出た。おいしいパンケーキを食べて幸せな気分になるつもりが、変な汗をかく結果になってしまったけれど、まあいっか。
そんな感じでつづく。
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