2015年08月

ファームへと帰ってゆくかずきさんを見送って、あっきーは仕事へと戻っていった。残ったなおえとわたしは、なおえの家へ行くことになった。


なおえは大学を休学してワーホリに来ている、現役の大学生だ。めちゃくちゃ元気でファンキーだけど、考え方がしっかりしていて、とても5つ下とは思えない。なんなら、わたしよりもシッカリしているかも。

ワーホリ生活はどんな感じか、日本ではどんな生活を送っていたのか、過去のこと、将来のこと、恋の話など、話題はつきなかった。


なおえが通っていた語学学校は、ブラジル人やコロンビア人が多かったらしい。そういえばなおえの誕生日パーティーに、ブラジル人とコロンビア人が何人か来ていた。

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なおえいわく、ブラジル人男性は女性の扱いがとてもうまいらしい。わたしはあまりブラジル人と関わったことがなかったので、へえ〜そうなんだ〜と聞いていた。


「だって彼らはセックス命だからね!」
 

そ、そうなんだ…。知らなかった…。

どうやらブラジル人は、セックスしたい一心で女性を誘う方法や、女性の扱い方に日々磨きをかけているらしい。素晴らしい国民性だわ…。日本人も少しくらいは見習うべきかもしれない。




夜はなおえのいきつけのバー、「ベガス」に飲みに行くことにした。なおえは自らを「アルコホリック」と称するほどの酒好きで、「このお店は水曜ビールが半額で飲める」「この店は金曜ワインが安く飲める」など、サーファーズパラダイス周辺の飲み屋のことを知り尽くしていた。

その日はベガスがワインが安い、ということでベガスへ行くことになった。


安く飲める日なのにもかかわらず、まだ早い時間だったからか、店内は空いていた。カウンターで注文し、わたしたちはテラス席で飲むことにした。しばらくすると、マリファナの匂いをぷんぷんさせた、ちょっと目がヤバい男が声をかけてきた。
 

なおえは英語が堪能なので、対応を任せることにした。めちゃくちゃめんどくさそうな顔をしながらも、英語で何かを言って、あしらおうとしてくれた。けれど男はしつこい。業を煮やした(?)なおえは、男の質問に驚きの回答をした。


ナンパ男:ところで君たち何人なの?

なおえ:ブラジル人だけど。
 




わたし、知らぬ間にブラジル人になったみたい。




わたし:(小声で)ちょ!なんでブラジル人?

なおえ:日本人って言うとなめられるから。


はあ〜さすが。色々と慣れてるわ。ますます年下だとは思えない。



めでたくナンパ男が去ったので、わたしたちは話しを続けた。わたしの旅の話になったとき、またもやなおえの口から年下とは思えぬ発言が飛び出した。




 

ちゃんとコンドーム持ってる?世界回るんなら持っておかなきゃ!



 
は、はい。すみません、先輩。




あーほんとおもろいわ、なおえ。

その後、なおえの家に戻ると、なおえはあったかいスープをつくってくれた。料理上手で、手際がよくて、味もすごくおいしい。もはや母ちゃんか?

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久しぶりに食べる、日本食のやさしい味付けに、胃も心も大満足だった。



つづく。
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なおえのバースデーパーティーの翌日は、あっきーの彼のかずきさんがファームへ帰る日だった。

オーストラリアのワーホリの期限は1年間。けれどファームで一定期間働けば、2年まで延長することができる。かずきさんはガトンという町のファームで働いていて、なおえの誕生パーティーのためにゴールドコーストに帰ってきていた。


15時ごろのバスに乗るということだったので、帰る前にあっきーに会いに、かずきさんとなおえとともに、あっきーが働く日本食レストランへ行くことに。店に着くと、バイト中のあっきーも、バンダナとエプロン姿でキッチンから出てきて、かずきさんとの別れの前のしばしの時間を一緒に過ごした。

あっきーの働くレストランは(名前を忘れてしまったのだけど)肉がメインのお店で、けっこうガッツリ食べられる。そのためか、訪れるお客さんは、ガッシリとしたボディーのオージーが多かった。


かずきさんが、料理長に「あきよ(あっきー)がお世話になっています。彼氏のかずきです」的な感じで挨拶がてら雑談しているのを眺めながら、外の席で注文したご飯が出てくるのを待った。しばらくして、おいしそうなお弁当が出てきた。名前は忘れてしまったけれど、あっきーおすすめのやつ!おいしかった。

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焼肉弁当をたいらげて、そろそろバスが来る時間だったので近くのバス停に向かって歩く。バイト中だったあっきーも、時間をもらってバス停まで来た。途中、あっきーの口から衝撃の発言が飛び出した。



あっきー:料理長が、「あきよの彼氏、すげー濃いなって」言ってた。


かずきさんは生まれも育ちも沖縄で、沖縄人もびっくりするほど顔が濃いのだ。


あっきー:なまってて、かずきが何言ってるか全然わかんなかったって。「正直、ぜんぶ予想で喋ってたよ俺」って言ってた。


 










料理長、日本人なんですけど…?
 







笑っていいのかわからないけれど、笑わずにはいられなかった。かずきさんと料理長は、2〜3分は話していたと思う。何を話しているかは聞こえなかったけれど、話は盛り上がっているように見えた。それなのに、料理長は、かずきさんが何を喋っているか、全くわからなかったというのだ。

何を言っているかわからなくて、予想で受け答えしてるのに、会話ってできちゃうんもんなのね…すごい。


しばらくしてバスがやってきた。あっきーは「じゃあな、達者でやれよ」とかずきさんを見送った。男前だな。「寂しいけど…がんばってね!」とかそういうの、ないのよね。だからわたしはこのふたりが好きなんだ。

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とにかく、わたしは今日、言葉なんて通じなくても、雰囲気で会話は成立するという大切な教訓を得ることができた。ありがとう、かずきさん。ありがとう、料理長。



つづく。
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4日目は、自転車を貸してくれたファンキーガール、なおえのバースデーパーティーに参加するとになった。


パーティーはなおえの住むホテルのバーベキューエリアで行われる予定だったので、夕方、ホテルへと向かった。オージーはBBQが大好きらしく、ホテルにも、マンションにも、公園にも、川辺にも、もうとにかくいたるところにBBQエリアがある。BBQが大好きなわたしには、まさに夢のような国だ。

あっきーは仕事の合間をぬってホテルに付いてきてくれた。なおえとは自転車を借りる時に一瞬会っただけだし、それ他の人は誰一人として知らない。そんな中にひとりで置いておくのは不憫だと思って、わたしが早く溶け込めるよう気を使って一緒に来てくれたのだ。(と思う)


ホテルに着いて、なおえの部屋におじゃました。中に入ると、日本人男性が出迎えてくれた。


黒い肌にもじゃもじゃのヒゲ。日本人離れした濃ゆい顔…こ、この人は…うわさ(?)のあっきーのダーリン、かずきさんにちがいない!だいすきな友達の彼氏と会うのって、すごくうれしい。かずきさんの濃い顔が見れてうれしかった。




知らない人ばかりだったけれど、あっきーが一緒にいてくれたおかげで、溶け込むことができた。30分ほどしか休憩時間がないので、あっきーは着いて早々慌ただしく帰って行ってしまった。

しばらくして、準備した食材を持って、バーベキューエリアへと移動した。人工ビーチのプールがあり、すごくいい感じ!

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最高だ〜と思っていたけれど、衝撃的な事実が判明した。



このバーベキューエリア、お酒が飲めない。(ビンが持ち込み禁止なだけだったかな?缶ビールならOKなんだっけ?詳しいことは忘れたけれど、とにかくお酒がすこぶる飲みにくい状況だったことは確か)


バーベキューでお酒が飲めないって、どーゆーこと?それってバーベキューの意味あるの?もはやバーベキューじゃなくて、ただの野外焼肉じゃん!

みんなもやっぱりお酒が飲みたいらしく、オーストラリアではほとんどみかけない缶ビールや紙パックのワインを持ち込んで飲んでいた。(ビンの持ち込みがNGなので)

わたしは結構ルーズな性格なので、「バレなきゃいいじゃん!迷惑かからなければいいじゃん!」と思ってしまうのだけど、どうがんばってもバレる。というのも、バーベキューエリア巡回している警備員が、常に目を光らせているのだ。目だけでなく、彼らは聴覚も研ぎ澄ましている。ビンとビンが当たる「カツン」というわずかな音すらも聞き取って、飛んでくるのだ。

これは大変だ。こんな地獄耳の警備員がいたら絶対に飲めない。観念して缶ビールと紙パックのワインを調達することにした。日本は缶ビールが主流だけど、オーストラリアには本当に缶ビールが少ない。そしてビンビールに比べて格段に高い。だけど飲みたい欲求は止めることはできないのだから背に腹は変えられない。



パーティーにはなおえの通っていた語学学校の友達や、バイト先で知り合った友達などが来ていて、とても盛り上がっていた。

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解散してからは、なおえ、なおえの友達、あっきー、あっきーの彼氏のかずきさんと、なおえの部屋で飲み直した。お酒を飲みながら、とりとめのない話をして笑いあって、なんだか学生に戻ったみたいだなと思った。日本にいても、海外にいても、結局わたしたちは同じことをしているのかもしれない。友達と夜中まで飲む。くだらない話で盛り上がり、酔いつぶれて寝る。朝家に帰り、夜にはまたいつものメンツでお酒を飲む。そんな時間が心地いい。

前日のバイロンベイでは、これでもかというほど孤独感を味わったので、気のいい仲間と一緒にいられることがよけいにうれしかった。 


 
つづく。
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3日目は、あっきーおすすめの『バイロンベイ』へ行くことにした。ゴールドコーストから1時間ほどの場所にあるバイロンベイは、ゆったりとした雰囲気が魅力的な町。かわいいカフェやショップが立ち並んでいて、見ているだけで楽しい気分になってくる。


バイロンベイへはひとりで行く予定だったので、前日にバスを予約した。朝、バス乗り場へと行くと、バイロンベイ行きのバスはまだ到着していないようだった。バスを待ている人たちが何組かいた。

しばらくすると、一台の大型バスがターミナルに入ってきた。行き先は「シドニー」と書いてある。周りの人たちが続々と乗り込む中、わたしはバイロンベイ行きのバスを待っていた。なかなか来ないので、不安になってシドニー行きのバスの運転手さんに「バイロンベイ行きのバスはちゃんと来ますよね?」と聞いてみた。すると運転手さんは「これがバイロンベイ行きだよ」と言う。

まじか!よかった〜聞いて!どうやらこのバスは、バイロンベイを経由してシドニーへ行くらしい。乗り過ごして、来るはずのないバスを待ち続けなければならないところだった。あぶない。

 

バスの旅は快適だった。ゴールドコーストから少し走ると、広大な牧草地が広がる道になる。『これぞオーストラリア!』って感じで(どんな感じだよ)すごく良かった。

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予定表によれば、バイロンベイへは1時間ちょっとで着くらしい。ノンストップで行くんだろうな、と思っていたら、走り出して30分ほどしたところで、パーキングエリアとも思えない、なんてことのないさびれた場所でバスが止まった。

走り出してからそれほど時間が経っていないのに、なぜ止まるんだろう?降りていく客もあまりいない。すぐに走り出すと思っていたけれど、待てど暮らせど走り出さない。このバスは、本当に目的地に時間通りに着くつもりがあるのかしら?たかが1時間の距離を移動するのに、なぜこんなに長い休憩が必要なの?

頭に「???」が浮かんだが、考えても仕方がないと思って考えるのをやめた。いつか走り出すし、いつか着くんだろう。オーストラリアでイライラせずに過ごすには、「ま、なんとかなるさ」と気楽に構えることが必要だと、早い段階で悟った。


20分くらい経っただろうか、やっとバスが動き出した。30分しか走っていないのに、20分も休憩するってどーなの?これからもこんな調子なの?わたしはバイロンベイまでだからいいけれど、シドニーへ行く人は大変だなあ…と心の中でシドニー行きの人に憐れんだ。



到着予定時刻を少しすぎたけれど、なんだかんだ到着した。降りると、バス停には何人か欧米人バックパッカーがたむろしていた。その中にとんでもないボロの服を着ぶくれするほど身にまとい、頭にヘンテコな帽子をかぶったおじいさんが座っていた。わたしの頭に、誕生日ケーキの着ぐるみがよぎった。白ではなく薄汚れた色をしていたけれど、シルエットはまさに誕生日ケーキの着ぐるみだった。

こ、これが本場のヒッピーというやつか…(絶対違う)バイロンベイは、ヒッピーの町だと聞いていたけれど、さっそくこんなSクラスのヒッピーに出くわすとは…これは今後どんなとんでもないヒッピーが繰り出すか、楽しみだなあと思ったけれど、結局、彼以上のヒッピーに出会うことはなかった。




ところでわたしは、バイロンベイの情報を何も持たずに来てしまった。とりあえずうろうろしていると、雨が降ってきたので急いでカフェに飛び込んだ。とってもかわいいカフェだった。

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雨も上がったところで、カフェを出た。バイロンベイは、海がすごくキレイだと聞いていたので、とりあえずビーチへ向かって歩いていたら、行き止まりに来てしまった。地図を見ると、ビーチと真逆の方向に歩いていたことが判明した。結構な距離を歩いたのに…。ちょっと泣きたくなったけれど、気を取り直して元来た道を戻った。さっきの雨はどこへやら、素晴らしい天気になってくれたのが、せめてものなぐさめだった。

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やっと!ビーチにたどり着いた。長かった。長かったよ…。海はとても美しかった。

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しばらく海をながめながらぼーっとして、町へ戻った。ぶらぶらしていると、よさそうなバーがあったので入ってビールを飲むことにした。土曜の昼ということで結構賑わっている。テーブルは満席だったので、仕方なく窓辺に立って道行く人を眺めながら飲むことにした。



バイロンベイに来てから、ひしひしと感じていたのだけど、バーにいる人も、道行く人も、ビーチにいた人も、すれ違う人も、みんなみんなみーんな、誰かと一緒だった。バイロンベイをひとりでふらふらしているのはわたしだけだ。




やばい、わたし、めっちゃさみしい人じゃないの…。


 

実際、さみしかった。陽気なバイロンベイの雰囲気が、よけいわたしをさみしくさせる。陽気なオージーに囲まれて、ひとりぽつーんとたたずむわたし。ああ、考えれば考えるほど気分が落ちてゆく。

さみしさをかみしめながらビールをすすっていると、隣にサングラスに立派なヒゲ、スキンヘッドのおじさんが来た。馬鹿でかいアメリカンバイクを転がしていそうな風貌だ。おじさんはわたしと同じく窓辺によりかかってビールを飲みはじめた。




ちょっと、この人、ひとりじゃん!

 

さっきまでのみじめさは吹っ飛んだ。まるで好きな人が隣に来たかのようにウキウキした。勝手に親近感を感じて、ちらちらと何度もおじさんを盗み見た。わたしもひとりなんですよ〜!一緒ですね!あははっ!っと、心の中で話しかけた。


ひとりなのは、わたしだけじゃなかった!るんるんビールを飲んでいると、しばらくして外の席が空き、おじさんはテーブルへと移っていった。わたしもビールを飲み終わり、店を出た。

ちょっと気分も上がったところで、ショップを見たり、カフェをのぞいたり、町をまたふらふらした。狭い街なので、何度も同じ場所を行ったり来たりしているうちに、さっきのバーの前を通った。



あのおじさん、まだいるかしらと外のテーブルを見ると、おじさんは、確かにいた。











奥さんとおもわれる女性と一緒に。






 
やっぱり、やっぱり、やっぱり、この町にひとりでいるのは、わたしだけなんだ…。







ひとりはさみしい。当たり前のことを当たり前に感じた1日だった。



つづく。
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2日目は、朝早くにあっきーが宿泊先のマンションに迎えに来てくれた。使っていないマウンテンバイクを、あっきーの友達が貸してくれるというので、友達の住むホテルに受け取りに行くためだった。


ってかホテルに住んでるの!?どんな金持ちよ!?と思ったのだけど、オーストラリアでは、ホテルの一室を何人かでシェアして住むことはよくあることらしい。

到着したのは立派なホテルだった。エントランスのソファーに座って待っていると、やたらと声がでかい女の子が降りてきた。それが「なおえ」だった。寝起き感満載でめちゃくちゃ眠たそうだったので、見知らぬ女に自転車を渡すためだけに早起きさせて申し訳ないなあと思っていると、「ダチのダチは、ダチだから!気にすんな!」みたいな(もうちょっとちがう言い方だったような気もするけど)男前なセリフが飛び出した。

酒焼けした声はガラガラで、顔はむっちゃむくんでたけど、ファンキーでおもしろい子だなあ。さすがオーストラリア、と思った。





ゴールドコーストでは、移動にスケボーを使う若者が多い。道を歩いていると、スケボーに乗ってさっそうと通り過ぎていく姿をよく目にする。サーファーっぽくていいなあ。かっこいいなあと思ったけれど、乗ってみようとは思わなかった。自分のスケボーの才能のなさは、小学生の早い段階で悟っている。

だけどマウンテンバイクならわたしにも乗れる。サドルが鋭角すぎて股間が痛くなるのが玉に瑕だけど、とにかく、マウンテンバイクという装備を身につけて、自由度が確実に増した。

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いったん家に戻って支度をして、すぐにビーチへ向かった。マウンテンバイクを路肩に停めて、ビーチでのんびりして、眠くなったらベンチで寝て、またマウンテンバイクであてもなく走りだす。めちゃくちゃ自由だった。最高に幸せだと思った。

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昼過ぎになって小腹が空いたので、メインビーチの近くにあるパンケーキ店に入った。プレーンのパンケーキを注文してわくわくしながら待っていると、イケメンの店員さんが運んできてくれた。う〜んおいしそう!

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食べたとたんに衝撃を受けた。






むっちゃまずい。





こんなにまずいパンケーキを食べたのは、冗談抜きで生まれて初めてだった。いったいどうやったらこんなにもまずいパンケーキがつくれるのだろうか?わたしだってもっとおいしくつくるぞ…。

ダブルを頼んでしまった自分がうらめしい。「シングルを頼んで足りなかったら嫌だし〜。たくさん食べたいし!」って…これだから欲張るといいことがないのよ!

一生懸命フォークとナイフを動かすものの、口にもっていくのさえためらわれる。渋い顔をしていると、イケメン店員がやってきて、「どお?おいしい?」と満面の笑顔で聞いてくる。つくり笑顔で「イエス!」と答えたけど、たぶん笑えてなかったと思う。


がんばって1枚の4分の3くらいは食べた。残りまるまる1枚と4分の1…ていうか、なんでわたしは、こんなにもがんばってパンケーキを食べてるんだ?虚しくなってきた。もう残してしまおう。お金はもったいないけれど、「オーストラリアで知らない店のパンケーキは食べない」という教訓を得られてよかったじゃないの…。

そう自分に言い聞かせて、店を出ることにした…
のだけど、この残ったパンケーキをどうしよう。お客が少ないせいか、イケメン店員はひんぱんにわたしの席の前を通る。彼はとてもフレンドリーで、通り過ぎるたびにほほえみかけてくれるし、何か必要なことはないかと、ちゃんとテーブルもチェックしてくれている様子。

まるっと1枚以上残して席を立とうとするのを見つかってしまったら、「もしかして、おいしくなかった?」なんて聞かれてしまうかもしれない!そんなことになったら、なんて答えていいかわからない。イケメンの悲しそうな顔も見たくない!

例えば1枚の半分だけ残っていたら、「ごめんね〜お腹がいっぱいで。やっぱりオーストラリアサイズはすごいよね!」と言える(そんな英語力あるのか?)けれど、まるっと1枚以上残ってるって、あきらかに「おいしくない」って言ってるようなもんじゃん。うまい言い訳が思いつかないよ〜。



結構本気で悩んだ結果、わたしが取った行動は2つ。

手をつけていない方のパンケーキを切って、2段に重ねて、ぱっと見半分以上食べたように見せかけること。

イケメン店員さんが遠くの方にいることを確認して、まるで忍者のようにサササっとレジへ向かうこと。





極力存在感を消しながら出入り口付近へ行くと、カウンターに優しそうなおばさまが立っていた。レジはどこですか?と聞きながら、わたしはイケメン店員が来なしないかとひやひやして、何度も店内を振り返ったりしていた。焦っているせいで、おばさまがなんと言ったのかよく聞きとれなかった。

おばさまが立っているのは、ドリンクかなにかを出すカウンターで、レジはどこか別のところにあると思っていたので、「レジはどこですか」「会計したいんです」と言葉を変えて何度も質問したのだけど、どうもうまく伝わらないのか、レジの場所を教えてくれない。

5回くらい質問して、やっと気付いた。おばさまはずっと、「ここがレジよ」と言っていたのだった。

顔から火が出るくらい恥ずかしかった。大抵の外国人ならば、きっと不審者か何かを見る目でわたしを見ただろう。だけどおばさまは優しかった。笑顔で「いいのよ、うふふ」と言って会計をしてくれた。


申し訳ないやら恥ずかしいやらで、そそくさと店を出た。おいしいパンケーキを食べて幸せな気分になるつもりが、変な汗をかく結果になってしまったけれど、まあいっか。



そんな感じでつづく。
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